認知症の親が作成した公正証書遺言を有効と判断した裁判例
令和7年2月25日 東京地方裁判所
事件の骨子
- 被相続人:B1(令和3年12月10日死亡)
- 相続人:長男:Y1(被告)・二男:X1(原告)・長女:X2(原告)→ 法定相続分は各1/3
- 被相続人は平成23年6月9日、公正証書遺言(本件遺言)を作成
・第1条:特定不動産(12番3の土地の被相続人持分全部と建物)を長男Y1に相続させる
・第2条:預貯金債権の2/3をX1に、1/3をX2に相続させる
・第3条:祭祀主宰者をY1
・第4条:遺言執行者として税理士Y2を指定 - 被相続人は施設・メディカルホームに入所、アルツハイマー型認知症の診断あり
- 争点:本件遺言の有効性(遺言能力の有無)
裁判所の判断:本件遺言は有効
- 被相続人には軽度の認知症はあったが、本件遺言の内容とその法的効果を理解できる能力(遺言能力)は備わっており、真意に基づく遺言である
事実認定・証拠評価のポイント
- 医療記録等から:平成23年2月の長谷川式スケール:16点(軽度認知症レベル)
近時記憶障害・見当識障害・海馬傍回萎縮 → 軽度アルツハイマー型認知症が認められる - もっとも、
本件遺言は条文4つ、内容も
・不動産を長男
・預貯金を二男2/3・長女1/3
という単純・明快な構成
遺言時の公証人とのやりとりでは、
自分の不動産(家と土地)、預金や有価証券の存在、それを誰にどう分けるかについて、被相続人が明確に答えていたと証人(Y2)が供述
実務上のポイント
- 長谷川式16点・軽度アルツハイマーがあっても、遺言内容が比較的単純 公証人の質問に対し、財産の内容・分け方を明確に答えられていた→ 遺言能力を肯定。医療記録だけでなく、「遺言場面での具体的応答」を重視。