自筆証書遺言を無効とした裁判例
令和6年3月28日 東京地方裁判所
事件の骨子
- 被相続人:亡A(令和2年1月21日死亡)
- 相続人:原告(長女)・被告(長男)
- 主な請求:平成29年3月31日付自筆証書遺言の無効確認
裁判所の判断:遺言能力なし(無能力=遺言無効)
- 亡Aは遅くとも3年前から認知症(HDS-R・
MMSEで中等度水準)。 - 作成1か月前の診療録に「遅延再生0/3、近似記憶障害」。
当日も書面内容を理解できず、 財産管理に関する質問の意味を十分理解していない様子。 - 作成前後に双方別々の医師が「後見相当」と診断。
のちに後見開始決定。 - 当日の言動も「財産は半分ずつ」と遺言内容(
マンション半分を被告に相続させる等)と矛盾。被告の示唆・ 促しの下で委任状も作成。
→ 総合して、遺言の意味・結果を弁識できる状態ではなく遺言無効。
(被告の反論:株式売却や保険手続等=能力の根拠→いずれも本人の自律的理解に基づくとはいえず採用せず。
施設記録でコミュニケーション可→常時明瞭とまではいえず採用せず。委任状・手書きはがき→能力の根拠とならず。)
事実認定・証拠評価のポイント
- 医学的所見(HDS-R/MMSE、診療録、後見用診断書、
後見開始決定)+当日の具体的応答状況(録音反訳)を重視。 - 遺言内容の合理性や作成経緯(被告の主導・用紙筆記具持参、
促し)を総合評価
実務上のポイント
- 遺言能力判断は医学的資料+当日の理解・
意思形成過程の具体的証拠(録音等)で総合判断。作成直前・ 当日の理解不能の兆候は決定的。 - 作成経緯の透明性(第三者関与、公正証書化、医師面談記録)
は後日の紛争予防に極めて有効。