事案の概要

  • 被相続人B1の長女(原告)が長男(被告)に対し、B1の公正証書遺言②(2016/10/5作成)および公正証書遺言③(2018/4/23作成)の無効確認等を求めた事案
  • B1は2013/2/14に遺言①(全財産を長女へ)を作成→その後、遺言②(全財産を長男へ)で撤回、遺言③(C1マンションを長男へ)を追加。B1死亡(2020/11/4)

裁判所の認定事実

  • B1はアルツハイマー型認知症。2016/8/12:HDS-R14点、MMSE16点。医師より事理弁識能力に大きな支障との診断。
  • 2017/7/4の鑑定でもHDS-R16点、MMSE19点、自己の財産の管理処分はできないと鑑定→後見開始審判(2017/7/11)。
  • 2016年夏以降、記憶障害・被害妄想の顕著化(日記記載等)。
  • 遺言②作成時、公証人は認知症診断を把握せず。
  • 遺言③作成時は医師2名立会いだが、当日の会話録音では、B1は財産の把握が不十分かつ「誰にあげるか」の回答が二転三転し、誘導に同調する様子が見られた。

判断

  • 遺言②:作成時点でB1は遺言をするために必要な判断能力を欠く常況にあり、無効。
  • 遺言③:民法973条1項(医師立会い)による形式を満たしても、当時一時回復を裏付ける医学的根拠なし。やり取りから理解・意思決定の不安定が明白で、遺言能力なし。無効。

この判決のポイント

公正証書遺言であっても、公証人が遺言者の認知症を把握していなかったこと等から、公証人と遺言者が日常的な意思疎通が可能であっても、意思能力があるとは認められないと判断しました。また遺言②については、単純な内容であるものの、それ以前に遺言①で正反対の内容の遺言を作成していることから、遺言①→遺言②に変更するに至った経緯について、自然で合理的であるとは認められない、と判断しました。