事案の概要

原告が2013年10月6日付けのA作成の自筆証書遺言について、遺言能力欠如を理由に無効確認を求めた。

裁判所の判断

Aには遺言作成時点で遺言能力があった
(認知症の診断や物忘れはあるが、遺言の内容を決めるだけの判断能力は残っていた)

裁判所が重視した事情

1) 診断名はあるが「程度」は限定的

  • 2012~2013にアルツハイマー型認知症の診断がある → 意思能力の低下自体は認める
  • ただし、2012年9月時点の医師意見では認知能力・意思伝達は「いくらか困難」程度にとどまる

2) 遺言直近の検査点(HDS-R 21点)

  • 2013/9/27のHDS-Rが21点
    → “中等度で常に援助が必要”とまでは言いにくい材料として使われた

3) 生活状況:独居+家事自立

  • 2013年当時、要介護認定やデイサービス利用はあるが、基本は自宅で一人暮らし、家事も自立(援助は受けつつ)

4) その後の経過も「当時はまだ保たれていた」方向

  • 2014年入院中にHDS-R 9点・5点、弄便等があるが、退院後に独居再開、2015年HDS-R 16点、2017年頃まで一定程度維持
  • さらに2017年の手続でも「後見」ではなく「保佐」相当の判断が出ている
    → 2013時点で全面的に判断不能とは言いにくい

5) 遺言内容が簡潔

  • 「全財産を長男Y1に相続させる」という単純な内容
    → この程度の意思決定は可能と評価
  • 裁判所は、入院中の悪化は投薬等による一時的な意識・認知障害の可能性があり、退院後の回復(独居再開、点数回復)からみて、それを遺言時点へ直結させられないとして退けた

実務上のポイント

遺言能力は診断名より“当時の具体的生活能力・検査点・経過”

  • 認知症診断があっても、HDS-R、独居の可否、日常生活の自立度、前後の推移(入院・薬剤の影響)で評価される。
  • 入院中の急落点数(9点・5点)をそのまま遺言時点へ遡及させない。