令和7年8月7日東京地裁判決 認知症疑いの親が作成した公正証書遺言が有効と判断された裁判例

事案の概要

  • 被相続人:亡B(90歳で死亡)。子は原告3名(長男・三男・四男)と被告(長女)ほか二男D。
  • 公正証書遺言(令和4年1月27日、自宅で作成)の内容は、全財産を長女(被告)に相続させる
  • 原告らは、亡Bが重度認知症で遺言能力がなく、遺言無効確認を求めた。

争点

  • 遺言能力(意思能力)があったか

裁判所の判断(ポイント)

遺言能力 → 否定(能力あり)

裁判所は、亡Bに認知機能低下はあったが、遺言時点で「重度アルツハイマーで遺言能力なし」とまでは認められないとした。

  • F病院の診療録では、初期に病名登録はあるが、診断としては「MCI(軽度認知障害)レベル」が継続し、重度進行を裏付ける所見が乏しい。
  • MMSE点数低下(26→21→17)は認知低下を示し得るが、MMSEはスクリーニングで、点数だけで重度と断定できない。17点も「中等度~重度」の上位で、他の重度所見が乏しい。
  • 肺炎入院時のせん妄・不穏や身体抑制、自立度判定Ⅳなどは、入院・体調悪化で起こり得るため、それだけで遺言時に重度といえない。
  • 後見開始の鑑定(令和4年10月)は、遺言時から8か月以上後で終末期に近い時期の評価で、遺言時点へ直結しない。
  • 死亡診断書の「3年3か月前からアルツハイマー症状」記載も、従前の診療経過と整合せず、遺言時重度の根拠にならない。

また、遺言内容(全財産を同居介護してきた長女へ)も、家族関係悪化や同居・介護状況等を踏まえると、明らかに不合理とまではいえないと評価した。

実務上のポイント

  • MMSEの点数低下や後見鑑定(遺言後)だけでは、遺言時点の能力否定に直結しにくい。遺言時点に近い医療記録・具体的言動の裏付けが重要。
  • 公正証書遺言では、公証人の手続(本人確認・聴取・読み上げ確認)の認定が強い証拠になりやすい